混声合唱組曲

             心の四季 より
                   作詩 吉野 弘  作曲 高田 三郎


               みずすまし     

                   一滴の水銀のような みずすまし
                   やや重く 水の面(おもて)を凹ませて(くぼませて)
                   浮いている 泳いでいる
                   そして 時折 水にもぐる

                   あれは 暗示的なこと
                   浮くだけでなく もぐること

                   わたしたちは
                   日常という名の 水の面(おもて)に生きている
                   浮いている だが もぐらない
                   もぐれない ----日常は分厚い

                   水にもぐった みずすまし
                   その深さは わずかでも
                   水の阻み(はばみ)に出会う筈
                   身体を締めつけ 押し返す
                   水の力に出会う筈

                   生きる力を さりげなく
                   水の中から持ち帰る
                   つぶらな可憐な みずすまし
                   水の面(おもて)に したためる
                   不思議な文字は 何と読むのか?

                   みずすまし----
                   あなたが死ぬと
                   水はその力をゆるめ
                   むくろを黙って抱きとってくれる
                   静かな静かな 水底へ
                   それは 水のやさしさ
                   みずすましには知らせない
                   水の やさしさ