混声合唱組曲
ひたすらな道
作詩 高野 喜久雄 作曲 高田 三郎
1.姫
むかし
そむかれて 狂った姫はとり乱し
叫びつづけて その山道をのぼりつめ
そこに ばったりたおれたのだ
そこで 姫は一夜のうちに池になった
つたえを信じる人々は
だから その池を姫と呼ぶ
近寄るな 近寄れば姫はとりすがり返さない
ただ ひとりの死体さえ ついにかえったためしがない
その不気味な池の岸に とある日
わたしもまた 出来れば池になりたいとひそかにおもいつめていた
おもい余って ひとつの小石を投げこんだが
姫はただ かすかなしぶきと水音をたて
ただの まるい波紋を岸辺につたえるのみだった
それ以上 なにごとも
なにごとも 起りはしなかった
そして わたし
さみしく苦笑いして
その山道を下るときだった
わたしは見た たしかにわたしは
見た わたしの中にありありと
まぎれもない さっきの小石が
ゆっくりと沈むのを・・・・・・・・・・・